持てる者がDAICOシステムを操作するのをいかに防ぐか

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DAICO モデル#

ICOが盛んになって以来暫くの間、いかに健全なICO環境を実現するか考えていましたが、今年の1月にDAICOというモデルに出会いました。これはICOで資金調達した後のガバナンスにおいて斬新な考え方で、簡潔に言えば、DAOのコンセプトを持ち込むことでトークン保有者が調達資金へ一定の影響を持てるようにするものです(DAICOはDAOとICOを掛け合わせた造語です)。DAICOの簡単な概要についてはこちらの記事で説明しています。また、このモデルを提唱したVitalik Buterinの投稿はここでみることができます。

このDAICOモデルが全ての問題を解決できる訳ではありませんが、より健全なICOを実現する上で大きな一歩となるでしょう。投票を抜きにして、Tapがあるだけでも、起案者は資金を全額持って失踪する事ができなくなります。

このモデルを実装する上で、いくつかの課題に直面していますが、特に投票についての課題が多いと言えます。今回の投稿では、その中でもおそらく一番の課題であるポイントに絞って話をします。

持てる者がDAICOシステムを操作するのをいかに防ぐか#

起こりやすさという点でDAICOモデルにおける一番の懸念点は、「持てる者がDAICOシステムを支配するのをいかに防ぐか」です。ガバナンスがICOと紐づけられた時に、富の集中が政治的な力の集中にも繋がることは想像しやすいと思います。DAICOモデルの逆説的な点は、民主主義と資本主義が共存していることです。民主主義では投票所に1人1票を持って行きますが、資本主義ではマーケットに不均等な資源を持ち込み、不均等な報酬を得ます(皮肉なことに民主的な投票でも政党献金などの問題で民主主義的では無くなってはいますが)。

今のところブロックチェーンで一人一票の仕組みを実現するのは難しいです。トークンがマーケットで取引されるようになると、全てのトークン保有者にKYCを施すことが難しいからです。1人1票ではなく、1トークン1票という形を取ることになります。つまり、誰でも民主的に参加することは可能ですが、資本主義のルールに則るというわけです。こうなると投資家はプロジェクト全体のことを考えずに利益を追求してトークンを購入すると言ってよいでしょう。

問題は、民主主義が51%攻撃に脆弱だということです。そして資本主義が民主主義と共存すると、一人のプレーヤーが過半数のトークンを保有する可能性は高くなるでしょう。つまりプロジェクトの起案者か、もしくは投資家が保有してしまうということです。トークンの配分を完璧にコントロールすることは難しく、このシナリオはDAICOでも他のどのモデルでも完璧に防ぐのは難しいと思います。

例えば、プロジェクトの起案者はICOを開始する前に過半数を持つことができます。DAICOを実装したICO プラットフォームは、投資家への透明性を高めるためにトークンの配分を公開することができますが、起案者はプラットフォーム上でICOを行わなければいけないというわけでもありません。仮に起案者に過半数を占有する意図がなかったとしても、資金調達目標額を満たすことができなければ結果的に過半数持つことにもなりかねません。ソフトキャップを儲ければこのリスクは最小限に留められますが、完璧な解決策とは言えないでしょう。

別の例として考えられるのは、機関投資家や個人投資家が過半数を閉めてしまう場合です。トークンセール期間中は投資家にKYC付きの最大購入額を設けることで、これは防げるでしょう(なるべく多くの額を調達したい起案者にはこうする動機は強くないですが)。ただ、繰り返しになりますが、調達額によってはソフトキャップを設けていても防げない可能性があります。また、トークンがマーケットで売買され始めると、全ての投資家をKYCしてホワイトリストに追加することが難しくなります。マーケットにおいて、中央集権型の交換所や個人投資家や機関投資家が過半数を専有することは十分起こりうるでしょう。

力関係に不均衡が生じることは既存の株式市場においても珍しいことではなく、これを完璧に防ぐことは難しいでしょう。一体フェアな投票システムとは何なのか、考えさせられますが、これについてはまた別の機会に書きます。

今のところDAICOは持てる者が占有してしまう状況を常に防げるわけではありませんが、KYC付きの個人最大購入額の設定やソフトキャップで最小限に止めることはできます。また、Tapがあるだけでも起案者はいきなり資金を全額持って失踪する事ができなくなりますし、投票でTapをあげる事が可決されたとしてもTapをあげる%に上限を設定しておけば残資金の持ち逃げを防ぐ事ができます

いずれにせよ投票の仕組みが崩壊しないためにはより洗練されたモデルを組む必要があり、運用していく中でデータを取りながら最適化していくことになるでしょう。